友人の飼っているペットの名前が覚えられない理由
友人の犬が尻尾を振りながら部屋に駆け込んできて、こちらを見て明らかに喜んでいる。こちらもこの犬にはもう三回会っていて、素直に嬉しい。ただ、名前がどうしても出てこない。ビスケットだったか、コショウだったか、たしか二音節だった気がする。結局「よしよし」でごまかして、名前を避けていることに気づかれていないといいけどと思う。妙な忘れ方だ。この犬の顔は一瞬で分かるのに、名前だけがすっぽり抜けている。しかもそれは、この犬をどれだけ気に入っているかとは、まったく関係のない話だ。
ペットの名前だけが、ここまで抜けやすい理由
一度きり、しかも慌ただしい中で紹介され、自分では一度も呼び返さない
人の名前は、たいてい少しは繰り返される。自分で呼び返し、他の誰かが使うのも聞き、あとの会話でまた話題に出ることもある。ペットの名前は普通、一度だけ、しかも本人(犬や猫)が飛びついてきたり走り回ったり、腕の中に押しつけられたりして気が散っているさなかに告げられる。「この子、ビスケットっていうんです」は、知らない言語の単語を一度だけ耳にしたときと同じ効き方をする。一瞬入ってきて、すぐに消える。しかも人の名前と違って、そのあとの会話でペットの名前を自分から使うことはほとんど期待されていないので、定着させてくれるはずの「繰り返し」自体が最初から発生しない。
名前のまわりに、何も紐づいていない
人の名前は、仕事や住んでいる場所、最後に話したことといった、小さな情報の網の中に置かれていて、そのどれか一つからでも名前を引っ張り出せる。ペットの名前はたいてい、まわりに何もない一語だけの情報だ。一度抜けてしまうと、そこから戻ってくる裏口がない。忘れたというより、丸ごと消えたように感じるのは、そのせいでもある。
名簿自体が、静かに入れ替わっている
複数の友人がペットを飼っている場合、覚えておくべきは「今の」名前だけではない。すでに亡くなってしまった子もいれば、前回会ってからもう一匹増えた家もあり、二年前に正しく覚えていた名前が、今はもう別の事情になっていることもある。名簿が入れ替わったことを、誰も教えてくれない。
それでも覚える価値がある理由
自分のペットを大事にしている人ほど、その子のことを絶えず話題にする傾向がある。ペットの名前が会話に出てくる頻度は、親しい友人の名前とそう変わらない。多くの飼い主にとって、それは些末な情報ではなく、家族の一員についての話だからだ。「あの犬、元気にしてる?」ではなく「ビスケット、元気にしてる?」と聞くのは小さなことで、相手にとっても小さなことにしか映らないかもしれない。それでも、その子についての何気ない情報がきちんと自分の中に残っていたという証拠にはなる。「友人が犬を飼っている」という箱にしまい込んで、それきりにしていなかった証拠だ。聞かれた側には何の負担もなく、しかも自分がちゃんと気にかけていたことを示すには、これ以上ないくらい手軽な方法でもある。
データベース化しない覚え方
当日のうちに、ひとつだけ特徴を添えて書き留める
十秒あれば十分だ。「ビスケット——新しく迎えた子犬、何でもかじる」。この特徴があるおかげで、名前がただの単語ではなく、思い浮かべられる一匹の動物になる。半年後に「これ何だっけ」と思い出そうとして、手がかりが何もない、という事態を防げる。
名前だけでは動物の種類がわからないときは、一言添える
猫にも犬にもウサギにも聞こえる名前は案外多い。「ビスケット、猫」と一語足しておくだけで、自信満々に違う動物のことを聞いてしまうという、避けられるはずの小さな失敗を防げる。
その子がもういないときは、そっと書き直す
ここだけは、間違えると少し気まずいでは済まない場所だ。友人のペットが亡くなったと聞いたら、書き留めておいたメモも直しておく価値がある。もういない動物のことを、うっかり明るく聞いてしまわないために。もし覚えている名前の子がまだいるかどうか自信がなければ、「最近、動物たちは元気?」というやわらかい聞き方をしておけば、名前でいきなり踏み込むことなく、話すかどうかを友人自身に委ねられる。
聞き直すのは、まったく普通のことだ
「そういえば、犬の名前なんだっけ?」は、友人同士でもっとも気軽な部類の質問だ。これで気を悪くする人はほとんどいないし、むしろ内心うれしく思う人も少なくない。適当に濁し続けるのではなく、ちゃんと名前を覚えたいと思っている、ということが伝わるからだ。
正直な補足
ここまでの話は、手にすり寄ってくる犬や、部屋の向こうで無視してくる猫を、どれだけ気に入っているかとは何の関係もない。ペットの名前をどれだけ覚えているかで、誰かに採点されているわけでもない。覚えていれば名前を使えばいいし、覚えていなければ聞けばいい。本当に出てこないときの「よしよし」も、それはそれで悪くない答えだ。当の動物のほうは、そんなこと一度も気にしたことがない。